遺言を残すか悩んでいる人の中には、遺言について誤解している方もいらっしゃいます。

遺言は遺言者の意思を死後実現させその効力を生じさせるという、私的自治の原則を人の死後にまで拡大する、すばらしい制度です。相続争いを防ぎ、相続人や受遺者にも長期間にわたる無益な争いを回避できる有益なものです。

この制度を誤解により利用しない方もいらっしゃいますので、よくある誤解を見ていきたいと思います。

(1) 遺言を残すほどの財産がない

多くの方が「我が家は財産が少ないから相続争いは起きない。」と考えているようです。しかし実際には財産が少ない方が揉めるケースが多いようです。

令和2年度の司法統計によると、遺産分割事件において1千万円以下の遺産で家庭裁判所で調停が成立した件数は2,017件あり、総数(5,807件)の約35%にも及びます。

本人は「たいした財産ではない」と思っていても、承継する側からすると「たいした財産」ということはよくあるのです。

(2) 遺言を残したら財産が使えなくなる

「遺言書に記載した財産はもう自由に使えなくなる」と思い込んでいらっしゃる方もおられますが、それは誤解です。

遺言は相手方のない単独行為であり、遺言の効力は遺言者の死亡の時からその効力が発生する、遺言の内容と抵触する生前処分の行為は、遺言を撤回したものとみなす。(民法985・1023)

上記①~③のように遺言は遺言者の一方的な意思表示であり、相手方と契約するのではなく、また意思表示の効力も遺言者の死亡により発生しますので、遺言書を書いたからといって、その財産が使えなくなるのではありません。そして遺言に記載した財産を処分してしまったとしても、その処分した部分のみが遺言の撤回とみなされます。

遺言自由の原則・・・人は遺言をする・しない、変更・撤回をする・しないを自由に決めることができる。人は遺言の自由              を放棄することはできない。

(3) 遺言を残すにはまだ早い

遺言を残すには遺言能力を有していなければならない。(民法963)遺言能力とは、遺言をするために必要な行為の結果を弁識、判断するに足る意思能力である。認知症や脳梗塞などの病気になってしまい遺言能力を失ってからでは遺言を残すことは難しくなってしまいます。遺言能力を失ってから作成された遺言は無効となります。

高齢による衰えや病気のリスクは誰にでもあるし、遺言を残す時に心理的負担を感じる人もいらっしゃると思います。よって、遺言は心身の状態が良いときが「残し時」だと思います。

(4) 我が家は仲が良いので遺言は必要ない

確かに仲の良い家族なら争いごとは起きずらいかもしれません。しかし、それはあなたという大きな存在がいるからこそ、家族が毎日笑顔で安心して暮らせているのではないでしょうか。

相続は死亡により開始します。「自分が存在しない家族」を想像してみてください。もし、あなたという大きな存在を失った家族に不安を感じたら、死後も「自分の分身」として家族を束ねてくれる遺言を検討してみてはいかがでしょうか。

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イノウエ行政書士事務所

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