自身の配偶者が認知症を発症していて、「もし自分が先に死んでしまったら」と気がかりな思いをされている方も多いと思います。
現在では65歳以上の方の5人に1人は認知症になるといわれており、2025年には認知症の方が700万人を超えると予想されています。
認知症を発症していると自分の意見や考えを発することが困難となり、遺産分割協議に参加することは難しくなると推測されます。
また、遺産分割協議も法律行為なので認知症により意思能力を喪失している方が参加した遺産分割協議は無効となってしまいます。
この場合、認知症の方に家庭裁判所から選任された後見人がつくことが多いと思いますが、選任された後見人がお亡くなりになった方が望んでいたような遺産分割に合意するとは限りません。
また後見人がつくと被後見人(認知症の方)がご存命の間は、後見人に対して報酬を払い続けることが考えられます。

このような望まぬ遺産分割を回避する1つの手段として遺言書の作成という方法があります。

認知症の配偶者を想う遺言

もし遺言書を残さず死亡してしまうと、相続人間で遺産分割協議が行われ、認知症である配偶者には、後見人がつくことになりますが、遺言書を作成していれば遺産分割協議をすることなく、被相続人(お亡くなりになった方)の希望する形で相続を実現することが可能です。

例えば「認知症の妻の面倒を見ることを条件に遺言者の長男Aに2000万円相続させる。」など、相続する側に一定の負担をさせることを条件として付すことも可能です。(負担付相続させる旨の遺言)(負担付遺贈・民法1002)
もちろん遺言や遺贈は遺言者の一方的な意思表示であるため、相続人・受遺者は放棄をすることができます。
負担付相続させる旨の遺言・負担付遺贈を行う場合は、予め相続人・受遺者とよく話し合っておく必要があります。

また、遺言書の中で遺言執行者を指定しておくと良いでしょう。
・遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。(民法1012①)
・遺言執行者がある場合には、遺言の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。(民法1012②)
・遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。(民法1013①)

このように、遺言執行者を指定しておけば、他の相続人の関与なしに遺言の内容に従い相続手続きを行えるため、認知症により相続手続きに参加できない配偶者を守ることにもなります。
未成年者及び破産者以外の者は遺言執行者となることができますので、相続人や行政書士・司法書士等の専門家などの中から信頼できる者を遺言執行者に指定しておくことをおすすめします。

生前に遺言書を作成することの重要性

相続が始まってから認知症の相続人問題に直面する方が多くいらっしゃいます。
認知症の相続人がいて遺産分割を行うことができなければ、後見人をつけ遺産分割協議を行うしかありません。
後見人の職務は被後見人の財産を守ることです。
相続人の方が心から認知症の方のことを思い要望した遺産分割案であったり、生前に被相続人が希望していた遺産分割の内容であったとしても、それが認知症の方の法定相続分を下回るような内容であった場合には、その要望を後見人が認めることは難しいとおもわれます。

自分の死後においても気がかりな者を守れる「自分の分身」として、遺言書を作成しておくことが重要だと思います。

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行政書士 井上 勝